
ユーザー系SIerとは?他のSierとの違いやユーザー系SIerで働く3つのメリット
就職活動始めたてでIT系企業について調べたときに、普段のニュース等ではあまり耳にすることがない単語に気がつくことはないでしょうか?「ユーザー系SIer」です。
「ユーザー系SIerってどんな仕事をしているの?」、「他のSIerとは何が違うの?」と、みなさんが疑問に思うのも無理はありません。
「ユーザー系SIer」とは、企業におけるITシステムの提案から運用・保守までを一貫して提供する、「SIer」という日本独自のIT企業の分類のひとつであり、大手一般企業を親会社に持つ「SIer」の総称です。
本記事では、就活始めたての学生のみなさんや、IT業界への転職を考えているみなさんを対象に、「ユーザー系SIer」の概要や就職した際のメリット・デメリット、「ユーザー系SIer」に向いているタイプ等について、、初心者向けにわかりやすく、かつ「SIer」での常駐経験豊富な筆者のリアルな視点で解説していきます。
記事の最後には、「ユーザー系SIerの就職先人気企業ランキング」もご紹介しますね。
本記事が、「ユーザー系SIerって就職先としてどうなの?」と迷っているみなさんにとって、ひとつの道標(みちしるべ)になってくれることを願いつつ、まずは「ユーザー系SIerって何をする会社?」という素朴な疑問から解き明かしていきましょう。
目次
1.「ユーザー系SIer」について理解しよう
前書きでもさっくりと解説しましたが、ユーザー系SIerとは、「SIer」という日本独自のIT企業の分類のひとつです。本章では、そんなユーザー系SIerについてさらに踏み込んで解説していきます。
1–1.「ユーザー系SIer」とはどんな会社か
ユーザー系SIerとは、通信、商社、金融、鉄道会社や社会インフラ系等、IT業界以外の大手一般企業を親会社に持つSIerを指します。親会社のシステム部門が分社化してシステム子会社となるケースが多いです。そんな成り立ちから、ユーザー系SIerのバックには、必ず親会社が存在します。その点では、メーカー系SIerと同じですね。ユーザー系SIerがメーカー系SIerと大きく異なるところは、親会社がPCメーカーではなく、大手一般企業であるという点です。
ご参考までに、主なユーザー系SIerと親会社の一例を下表にまとめてみました。ユーザー系SIer企業の中には、聞き慣れない名前もあるかもしれませんが、親会社は誰もがご存知の大手企業ばかりなのがご理解いただけると思います。
1-2.「ユーザー系SIer」はどんな業務を行うのか
ユーザー系SIerの主な業務は、親会社や系列のグループ会社から受注されるシステムの設計、開発、保守・運用、ソリューション提案等です。親会社や系列のグループ会社から継続して仕事を受注できるため、経営状態は安定していると言ってよいでしょう。取り扱う業種は親会社に沿ったものにならざるを得ませんが、エンドユーザーにより近い立場、役割で、ITによる問題解決に取り組むことができます。実際の業務内容としては、主にシステムの基本検討や要件定義、基本設計やソリューション提案といった上流工程を担当し、開発、テスト、保守・運用等の実作業は、自社に常駐する下請け企業に委託することが多い傾向にあります。
また、ユーザー系SIerの中には、親会社のシステム開発で培った業界知識やノウハウを活かして、親会社以外の外販を請け負うところもあります。とはいえ、親会社からの受注が売り上げの大半を占めることが多いのが、ユーザー系SIerの特徴であると言えるでしょう。
1–3.「ユーザー系SIer」と他のSIerは何が違うのか
SIerは、大きく3つに分類することができます。
今まさに本記事で解説している「ユーザー系SIer」と、「メーカー系SIer」、「独立系SIer」です。それぞれのSIerは、会社の成り立ちを始めとしたそれぞれの特徴を持っています。以下に、3つのSIerの特徴を比較表にまとめてみました。3つのSIerの違いが一目瞭然かと思います。
また、筆者は本記事と同じように「メーカー系SIer」、「独立系SIer」についての紹介記事も、本サイトで公開しています。そちらの記事も、ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。
関連記事 関連記事2.「ユーザー系SIer」で働く3大メリットとは
ユーザー系SIerは大手一般企業が親会社ですので、前章で挙げた経営の安定性以外にも様々なメリットがあります。本章では、ユーザー系SIerで働くメリットについて大きく3つ解説していきます。
2–1.特定業種のエキスパートを目指すことができる
前章で解説したように、ユーザー系SIerでは、親会社から受注するシステムに多く関わることになります。
そして、それらのシステムの中には、親会社の業種に深く関わるものも数多くあります。親会社の業種に限定されてしまうところはありますが、それらのシステム開発で数多くの経験を積み、真摯な研鑽を続けることによって、業界知識もさらに深まっていくことでしょう。ゆくゆくは、親会社の業種のエキスパートになることも夢ではありません。
「〇〇業界のシステムだったら、佐藤さん(仮)に聞け」と言われるようになれたら、カッコ良いですよね!
2–2.社会貢献度が高いシステムに関わることができる
何度も繰り返し書きますが、ユーザー系SIerは親会社が名立たる大手企業ばかりです。そんな親会社から受注するシステムは、もちろん社会的にも大規模でビックネームなプロジェクトが多いです。それだけに、トラブル発生時には社会的な大ニュースになってしまうこともありますが、社会貢献度の高いシステムに関わっているのだという責任感と充実感を得ることができます。
中には社内業務でのみ使用する中小規模のシステムを開発することもありますが、それでも社会的貢献度が高い大手企業の中で使用されるシステムです。たとえシステム規模が小さくても、そんな小さなシステムのひとつひとつが社会を支えているのだと実感できると思います。
2–3.労働環境が比較的ホワイト
ユーザー系SIerのすべての企業の労働環境がホワイトである、とは断言できませんので、「比較的」と予防線を張らせていただきました(笑)。とはいえ、これはIT業界歴約30年の筆者の実体験による実感です。
ユーザー系SIerの親会社は大手企業ばかりであり、福利厚生等の待遇も親会社に準ずることが多いため、比較的働きやすい労働環境であると言えるでしょう。筆者は、SIerの3分類(ユーザー系SIer、メーカー系SIer、独立系SIer)すべての企業で常駐経験がありますが、ユーザー系SIerは、他分類のSIerに比べると、雰囲気的にも落ち着いていて、良い意味でのんびりした気質の印象があります。また、実際にユーザー系SIerで仕事をしていた際の残業規制等もとても厳しく、「許可のない残業は最大21時まで。突発以外でそれ以上の残業は、仕事の振り方がおかしい。」と明言されていた程でした。
3.「ユーザー系SIer」で働く3つのデメリット
大手企業が親会社と言えど、メリットの陰には必ずデメリットが存在します。本章では、ユーザー系SIerで働くデメリットについても、3つ解説していきます。
3–1.合わないと思ったときの方向転換が難しい場合がある
前章「2–1.」で挙げたメリットは、反面デメリットのひとつになることもあります。
ユーザー系SIerで担当するシステムは、どうしても親会社の業種に限定された内容のものが多くなります。これは、ユーザー系SIerを就職先として選択する際の宿命と言ってもよいかもしれません。就職したユーザー系SIerで、親会社の業種についての知識を深めたり、研鑽を積むことが苦ではなければ万々歳ですが、何かのきっかけで、自分にはこの業種は合わないなと思ったときの転換は、ちょっと難しいかもしれません。特定業種についての知識、経験しか積んでいないからです。もし仮に転職するとなった際に、業種の幅が狭まってしまうことは否定できません。
とはいえ、IT業界は常に経験者不足ですから、業種に拘らず勤勉に学ぶ姿勢を持っていれば、それ程先行きを暗く考える必要はないと思います。また、ユーザー系SIerの中には、親会社の業種以外の顧客を多く持つ企業もありますので、特にユーザー系SIerについては、就活時の企業研究を慎重に行う必要があると言えるでしょう。
3–2.安定・堅実がデメリットになる場合もある
メリットとしても挙げていますが、ユーザー系SIerは経営的に安定している分、良い意味でも悪い意味でものんびりした空気が漂う企業が多いです。親会社や系列のグループ会社から受注するシステムも、年間計画と厳密な予算管理の元に進められることが多いため、安定・堅実ではありますが、その分働き方の変化に乏しく、それを退屈と思ってしまうとちょっと辛いかもしれません。
また、これも大企業ならではのデメリットと言えるかもしれませんが、会社組織が堅実でしっかりしているため、様々な手続きや承認のプロセスが多く、決定スピードがだいぶ遅いことは否定できません。これは、現在まさにユーザー系SIerに常駐している筆者の実感でもあります。プロジェクトの様々な手続きについて承認プロセスの数が多すぎて、プロジェクト開始の認可が下りるまで1ヶ月以上掛かることもあります。
3–3.親会社に吸収され会社が無くなってしまうこともある
このデメリットはユーザー系SIerに限らず、メーカー系SIerについても最近ニュースで散見することが増えてきたように思います。そもそも親会社のシステム部門が分社化したという成り立ちでしたが、昨今では、社会情勢や業績悪化、親会社の方針転換等により、再び親会社に吸収されてしまうケースも耳にします。もちろんシステム子会社であるユーザー系SIerは(メーカー系SIerも)、親会社の決定に逆らうことはできません。親会社が大手企業というメリットを享受する陰には、こんなデメリットもあるのです。
以下はメーカー系SIerのニュースですが、SIerのデメリットの一例としてご紹介します。
◆富士通Japanに消滅説が浮上、2024年4月までに富士通へ統合か(2023年3月・日経クロステック/日経コンピュータより)(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00848/00100/)
4.「ユーザー系SIer」に向いているのはこんな人
本章では、こんなタイプの人は「ユーザー系SIer」のエンジニアに向いていますよ、という個人的な見解をご紹介します。個人的とはいえ、IT業界歴30年以上の筆者が、「ユーザー系SIer」のエンジニアと一緒に仕事をしてきた経験則をベースにしていますので、それほど的外れではないはずです(笑)。
4–1.特定業種のエキスパートを目指したい人
何かひとつの特化した業種のエキスパートになりたい!と意欲に燃える人は、ぜひユーザー系SIerをオススメします。また、ひとつのことを深く掘り下げたいという探求心旺盛な人もユーザー系SIerの仕事に向いているのではないかと思います。
親会社の業種に特化されてしまうという面もありますが、ロジカルにシステム構築を考えるという点において、実は業種はあまり問題ではありません。ぜひ「××業界のシステムだったら、鈴木さん(仮)に聞け」と言われるようなエキスパートを目指して自己研鑽に邁進してくださいね。
何かひとつでも、自分はエキスパートレベルの知識、知見があるという自負は、ITエンジニアの仕事にとって、とても大事な「強み」になります。
4–2.社会貢献度の高いシステムに関わりたい人
そろそろ「耳タコ」だと思いますが(笑)、ユーザー系SIerの親会社は、社会的にも名立たる大手企業ばかりです。誰もが名前を知っている有名銀行のシステムだったり、場合によっては、自分のメインバンクのシステムに携わることもあるでしょう。
そんな社会的貢献度の高いシステムを通して、社会に深く関わっているという充実感を感じたい人には、ユーザー系SIerはオススメです。ただし、社会貢献度が高いシステムと言えど「3–1.」のデメリットで解説したような面もありますので、くれぐれも企業研究は慎重に行いましょう。
4–3.自社内で腰を据えて働きたい人
ITエンジニアは、仕事の性格上顧客先企業に常駐して働くことが多い傾向にあります。筆者も約30年のITエンジニアのキャリアの中で、自社内で働くことができたのはほんの数年、10年にも満たない期間です。
そんな中でもユーザー系SIerは、比較的自社内で働くことができる数少ない(泣)IT企業であると言えると思います。取り扱うシステムの多くが、親会社の業務であり、自社内での持ち帰り作業が可能だからです。
とはいえ、ユーザー系SIerでも、親会社や系列のグループ会社に常駐したり、親会社の業種以外の企業を顧客に持つところも少なからずあることも事実です。できれば常駐せず、自社内で腰を据えて働きたいという人は、くれぐれもユーザー系SIerの企業研究をしっかり行った上で、ユーザー系SIerを目指してみてはいかがでしょうか。
4–4.冒険よりも安定を求める人
仕事に冒険心など不要、安定性のある仕事を長く続けたいという人は、ユーザー系SIerの働き方が向いていると言えます。前章までで解説してきたように、ユーザー系SIerは安定・堅実な計画の元にシステム開発を行うことが多いからです。
その反面、新技術を導入する、失敗するリスクを想定の上で冒険することはだいぶ少なめです。(絶対に無いとは言いませんが)「IT業界という大海原を舞台に数多くの冒険をしてみたい!」と、ワンピースの麦わら海賊団のような冒険心に燃える人にとっては、ユーザー系SIerは少し退屈に感じてしまうところがあるかもしれません。
余談ですが、そんな冒険心を胸に秘めてITエンジニアをやってみたい人には、独立系SIerやSESの働き方をオススメします。
5.「ユーザー系SIer」就職先人気企業ランキング
本章では、前書きで予告した通りユーザー系SIerの就職先人気企業ランキングのTOP10をご紹介します。人気ランキングとは言え、数多ある調査結果のひとつに過ぎませんが、みなさんの判断の助けになれば幸いです。
【参考】
調査主体:楽天みん就
企画協力:日経コンピュータ
調査期間:2021年4月8日~2022年3月25日
調査対象:2023年卒業予定登録学生のみん就会員
有効回答人数:2332人
※上記調査結果を元に、筆者がユーザー系SIerのみピックアップ
6.「SIerについてもっと知りたい!」という人向けのリンク集
さいごのオマケに、「SIerについてもっと詳しく知りたい!」と興味が出てきた人に向けて、本記事では軽くしか触れなかったSIer全般の概要についてテーマにした本サイトの記事をご紹介します。本記事とは別視点から考察した記事ですので、SIerに対する知識をさらに深めたいという人は、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事 関連記事また、先日オープンしたばかりの弊社YouTube公式チャンネル(ボールドch)では、本サイトの編集長がSIerについてわかりやすく解説している番組もあります。そちらもぜひ参考になさってください。
◆【初心者向け】SIerとは?わかりやすく解説
そして、老婆心ながらIT業界で長年働いている現役ITエンジニアからのアドバイスです。
「〇〇系SIer」という系統分類は、実はIT業界の中ではほとんど意味を持ちません。それぞれのSIerの社員でさえ、自分たちの会社を「〇〇系SIer」と呼ぶことはありません。「〇〇系SIer」とは、主に就職活動においてのみ使用される分類のひとつだということを、どうぞ覚えておいてくださいね。
7.さいごに
ユーザー系SIerについて、就活始めたてのみなさんに興味を持ってもらえるように、わかりやすく解説してきたつもりですが、いかがでしたか? 本記事を読む前に比べてユーザー系SIerについての理解が深まり、ITエンジニアに対して少しでも良い印象を持ってもらえたら、とても嬉しいです。
最後のさいごに、みなさんのこれからの就活の助けになるような本サイトの記事をいくつかご紹介します。どの記事も力作揃いですので、ぜひこちらも参考にしてみてくださいね。
関連記事 関連記事 関連記事 関連記事 関連記事本サイトの記事によってみなさんの不安が少しでも軽くなり、前向きな就職活動の助けになれたとしたら、こんなに嬉しいことはありません。
ご自分が納得できる就職活動になりますように、心から応援しています。
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