資本主義後の新たなビジネスモデルは「オープンソースムーブメント」で築かれる!

資本主義後の新たなビジネスモデルは「オープンソースムーブメント」で築かれる!

成井 弦

成井 弦

LPI-Japan創設者/名誉顧問 武蔵工業大学電気通信工学科卒業、 米国カンサス州立ウィチタ・ステート大学大学院電気工学科修士課程修了。 DECインターナショナル入社後、日本DEC取締役、米国DECの教育・コンサルティング事業担当副社長、日本SGI副社長に就任。 リナックス技術者認定制度「LinuC(リナック)」などを行うLPI-Japanを設立

株式会社ボールドの福井克明取締役より、ENGINEER.CLUBの読者向けに投稿する機会を頂きました。そこで、Linuxのみならず、多くのオープンソースソフトウエアの開発の源である、オープンソースムーブメントについて書くことで読者の皆様がより良いキャリアを築くことが出来ればと思い、この寄稿文を書きました。

皆様ご存じの通り、戦後日本は資本主義のビジネスモデルを採用し、生活必需品が市場にあふれるほどに成長しました。しかし過去30年間の日本のGDPの平均成長率は0.8%と非常に低い状況です。ちなみに、1956年から1973年までの日本の平均成長率は9.2%でしたので過去30年で約10ポイントも落ちたことになります。実は、日本のみならず、資本主義を採用して成長したG7諸国の成長率も鈍化しています。

G7諸国のGDP成長率

それでは、資本主義後のビジネスモデルとして、日本は「どのようなビジネスモデルを採用すれば更なる成長が可能か?」が問題です。この点に関して、TVなどにも頻繁に登場し、多くの著書がある経営コンサルタント・著作家の山口周氏は著書“ビジネスの未来―エコノミーにヒューマニティを取り戻す”で「無償の贈与」をベースにしたビジネスモデルが今後は重要と説かれています。そして、「無償の贈与」方式の成功事例として、オープンソース方式で開発されたコンピュータのオペレーティングシステム、「Linux」のことを述べておられます。また、経営学者である田坂広志氏も著書“「21世紀の資本主義を語る」で、今後重要となるビジネスモデルの一つは「ボランタリー経済」だと説かれています。そして田坂氏は「ボランタリー経済」の成功例としてやはり、多くのIT技術者のボランタリー活動により開発された、Linuxについて紙面を割かれています。IT業界に属されない、山口氏と田坂氏がそれぞれの著書でオープンソース方式で開発されたLinuxの成功を資本主義後のビジネスモデルの成功事例の一つと考えておられるのは非常に意義があり、また的を得ていると私は感じます。

山口氏及び田坂氏が著書で述べられたLinuxはインターネット上で多くのIT技術者やIT企業が自分や自社のソフト開発能力を無償で提供する方法で開発されたコンピュータのオペレーティングシステム(OS)です。多くのIT技術者やIT企業のボランタリー活動により開発されたLinuxは、現在、パソコン(PC)以外の分野では最も多く利用されているOSと言われるほどに普及しました。

IT技術者やこれからIT業界に入ろうとされている方々は特にこのLinuxの開発原動力になった「オープンソースムーブメント」が生み出している新たなビジネスモデルを理解することが、キャリア形成に不可欠だと思います。それ故に、上記の2氏が著書で指摘されたことに加えて、私が長年IT業界で得た知見も加えて、私が「資本主義後の新たなビジネスモデルはオープンソースムーブメントで築かれる」と思う理由を説明します。

One dayインターン

1.オープンソースムーブメントとは?

まず、世の中を根本的に変えた「インターネット」はオープンソースムーブメントにより開発されたということを皆様はご存じでしょうか?

オープンソースムーブメントとは、多くの技術者や企業が技術開発に無償で参加し、その成果を公開し、多くの場合、その成果を誰でも無償で利用出来るようにする開発形態をオープンソースムーブメントと呼びます。現在、このオープンソースムーブメントはIT業界のみならず、幅広い分野に広がっていますが、ここでは主にIT業界でのオープンソースムーブメントについて説明します。

驚くことに、オープンソースムーブメントで開発されたインターネットは、最も秘密を重要視する米国国防省の研究所であるARPA(Advanced Research Project Agency)が開発した、「ARPANET」と呼ばれるネットワーク技術が中核となっています。ARPANETの開発には私が勤務していた米国のコンピュータメーカDEC、IBM、そして色々な大学などの研究機関が無償で開発に貢献しました。そして、米国はその開発で得た技術内容を秘密にせず、無償で公開したのです。インターネット技術は、この無償で公開されたARPANETの技術をベースに、再び多くの技術者や企業が無償で開発に貢献して出来上がりました。従って、インターネット技術にも秘密はありません。また、ある特定の企業や組織が特許を有することもありません。ようするにインターネットは多くの技術者や研究所、企業などが参加したオープンソースムーブメントにより開発され、無償で提供されたのです。

米国主導で開発されたインターネットですが、ソ連(現在のロシア)や中国など、米国と対峙する国々もインターネットを採用したのは、インターネットがオープンソースムーブメントで開発され、米国政府や米国企業が知財を有さないからです。もし、米国政府や米国企業が知財を有する方式を採用していたら、ソ連や中国は、インターネットと互換性のない、それぞれ別のネットワーク方式を開発したと思います。このように、オープンソースムーブメント方式は資本主義後vs共産主義のような政治体制の枠を超えて、グローバルに通用する技術の開発モデルであることを理解することが非常に重要だと感じます。


2.無償の貢献が、貢献国・貢献企業・貢献者に金銭的なメリットや名誉を提供する仕組みとは?

多分、ここで皆様が知りたいのは、オープンソースムーブメントの世界で無償の貢献をすれば、どのような仕組みで金銭的メリットを得ることが可能なのか?だと思います。この点を理解する為に、インターネットをオープンソースムーブメント方式で開発し無償公開した米国の金銭的な収支を考えてみましょう。まず、我々は、インターネットを利用して世界にビジネスを展開し、巨額の売上・利益を上げている会社は殆ど米国企業であることを認識する必要があります。俗にGAFAM (Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)と呼ばれる巨大企業は全て米国企業です。GAFAM以外にクレジットカード会社のマスターカードやVISAカードNetflixなど多くの米国企業がインターネットを利用して世界にビジネス展開しています。更に、動画の配信ビジネスの最王手であるNetflixもやはり米国企業です。

米国政府が主導して「無償の貢献」や「ボランタリー活動」により成り立つ「オープンソースムーブメント」で開発されたインターネットは、巨額の金銭的メリットを米国企業の繁栄を通じて米国に与えたことは改めて説明するまでもありません。米国がインターネットを無償で世界に提供したが故に、上記した米国企業はグローバルにビジネスを展開し、それぞれの分野で圧倒的な優位性を築くことが出来ました。この事実は、「オープンソースムーブメントが創り出した新たなビジネスモデル」は資本主義での成長が鈍化した米国にとり、非常に有効であることを証明したと思います。

オープンソースムーブメントでは、最大の貢献者が最大の受益者になる可能性が最も高いことは国のみならず、企業や個人レベルの貢献者にもあてはまることを後に説明します。その前に、オープンソースムーブメントが国に与える「ソフトパワー」について説明します。


3.オープンソースムーブメントとソフトパワー そして国の制作

ソフトパワーとはハーバード大学のビジネススクールで長年教鞭をとっていたジョセフ・ナイ氏が生み出した表現です。なおジョセフ・ナイ氏は米国の民主党政権でしばしば政府高官を務め、日本についても精通した人でした。

ナイ氏の考えを要約すると、「他国を自国の思うように動かす方法として軍事力と経済力で相手国を動かすハードパワー方式と、自国の価値観や文化を相手国内に普及させることにより相手国を動かすソフトパワーがある」ということです。

現在、起きているウクライナにおける戦争において米国はウクライナに軍事的な面で多額の援助を提供しているのは皆様ご存じの通りです。一方、米国がオープンソースムーブメント方式で開発したインターネットにより、ロシアには米国の文化やライフスタイルが浸透していました。例えば、ロシア国内におけるマスターカードやビザカードの浸透です。また、多くのiPhoneをロシア人が愛用することで、米国的なライフスタイルがロシア内に普及していました。例えば、カーリングの世界大会に参加したロシアの選手がApple Watchを利用していたのを私もTVで何回も見ました。

ロシアのウクライナへの侵攻により起きた今回の戦争で米国政府は米国企業に対してロシアからの撤退を要請し、多くの米国企業がその要請に応えました。アップル社は2022年3月1日に米国企業の中では一番最初にロシアから撤退したと報じられています。そしてビザとマスターカード両社は2023年3月5日にロシアでの業務を停止すると発表。Googleもロシア向けのGoogle Play等の課金システムを停止したと報じられています。

米国の3大クラウド提供会社であるアマゾン, マイクロソフトそしてグーグルの三社はそろってロシアにおける新規契約の受付を停止したとも発表しています。

このような制裁は、ロシアに対する米国の経済的な制裁と見なすことが出来ますが、米国的なライフスタイルに慣れた国民を有するロシアに対する米国のソフトパワーによる制裁の側面が強いと思います。

米国政府は、Googleがオープンソース方式で開発したスマホ向けOS「アンドロイド」を中国企業が使用することを禁止することに成功しました。この禁止処置により中国のファーウエイはスマホのマーケットシェアを著しく落とし現在でも低迷しています。ファーウエイは自社製のOSを作りましたが、アンドロイド上で形成されたエコノミーシステムを自社のOS上に移すのは容易ではないと思います。

(なお、「オープンソース・イニシアティブ(OSI)」による「オープンソース」の定義では、「特定人物・集団に対する差別の禁止」が明記されています。従って米国政府の要望に応える形で、Googleが中国企業のファーウエイ社がアンドロイドを使用できなくしたことにより、OSIの定義に従えば、アンドロイドはオープンソースソフトではなくなりました。ただ、企業や個人がOSIの規定に従わなければならないとの法的な拘束力はありません。)

上記のように、オープンソースムーブメントは、国の政策にも多大な影響を与えるほどの大きな潮流になっています。このような、オープンソースムーブメントが引き起こしている大きな流れは、当然、IT技術者やIT企業に多大な影響を与えますので、我々IT技術者は注意を払っている必要があります。


4.オープンソースムーブメントでの貢献が企業に与える金銭的メリット

上記(2)と(3)では、インターネットの開発における最大貢献国である米国が得た金銭的なメリット及びソフトパワーについて説明しました。

次に、企業にとってもオープンソースムーブメントがビジネスモデルとして十分に成立することを米国のRed Hat社を事例として説明します。Red Hat社は、Linuxなどのオープンソース方式で開発されたOSSに関連する諸々のサービスビジネスのみでNew York証券取引所に上場する大企業になりました。そして、このRed Hat社の買収にIBMは34ビリオンドル、約5兆円、の買収資金を投じました。この買収金額は、IBMが今まで他社を買収する際に支払った金額で最大です。
RedHat社はLinux等のオープンソースソフトの改善に非常に多くの無償の貢献をしています。そして、その貢献度の高さを自社の差別化要因として色々な方法で宣伝をしています。しかしRed Hat社は、Linuxの改善に貢献したからといって、自社が改善したLinuxの著作権使用に対する金銭的な対価を使用者に求めることはしません。従って、RedHat社は金銭的な価値を生み出す知財を持たない企業と言えます。

2022年11月に楽天本社で開催された楽天テクノロジーフォーラムにて講演をしたRed Hat社のCTOであるクリス・ライト氏は、「IBMが知的財産を有しないRed Hat社の買収に34ビリオンドルもの大金を払ったことは、多くのIT企業が自社の知財で売上・利益を上げていたのとは全く異なる、新たな時代の流れを感じる」と述べました。私もその通りだと感じます。要するにRed Hat社のビジネスモデルは自社が重要と考えるオープンソースソフトの改善に大きく貢献することで、そのソフトの「サービスビジネス」で他社に対して優位性を築き多額の売上・利益を上げるモデルです。これは「オープンソースムーブメントが創り出した新たなビジネスモデル」の一つです。

世界の自動車で利用されるマイクロプロセッサーユニット(MPU)で、日本のルネサスエレクトロニクス株式会社(ルネサス)は世界トップクラスのシェアを有します。その大きな理由は、自動車などに利用されるMPU向けのLinuxの改善活動でルネサスが非常に高い貢献度を維持していることにあります。
Linuxの改善は、多くの企業やIT技術者が無償で改善ソフトを開発し、その改善ソフトを、優秀なLinux技術者のボランタリー活動で成立しているLinuxコミュティーに送ります。Linuxコミュニティーでは、無償で提供された改善ソフトを審査します。そして、この審査委員会は、最も良いと判断した改善ソフトを
最終的にはLinuxの開発責任者であるLinus Torvalds氏に送ります。

Linus Torvalds氏

上記の審査委員会はLinuxの機能別に編成されています。種々の審査委員会が選別した多くの改善ソフトをLinus Torvalds氏が最終的に調べ、彼の最終承認を得た改善ソフトがLinuxの新しいバージョンに組み込まれる仕組みになっています。別の言い方をするとLinuxは上記のような「貢献の競争で勝った」人や企業が提供したソフトの集合体と言えます。この仕組みをビジネスモデルの観点で説明すると、上記の「貢献の競争」に勝った企業や個人は非常に高い確率で、最大の金銭的リターンを得ることが出来ると言えます。例えば、ルネサスの場合で言えば、自社が提供した改善ソフトに関連する自動車の分野では、ルネサスが設計するMPUが最も高速に動作する確率が高くなります。このように、Linuxの改善活動では、最大の貢献社(者)が、貢献した分野のビジネスの面で他社に対して圧倒的な優位性を築くことが可能になる確率が非常に高くなる仕組みです。

上記したような仕組みは、Linuxのみならず、他のオープンソースソフトウェアにもあてはまる場合が多いのです。


5.個人レベルでも、最大の貢献者が最大の受益者になる

「インターネットの父」と検索すると村井純 慶応大学名誉教授が表示されます。そして、そのサイトから村井先生がインターネットに関連する幅広い分野で、活躍されたことを知ることが出来ます。村井先生の貢献の一つはオープンソースムーブメントで開発されたインターネットを、日本語を含む英語以外の言語(マルチバイト言語)で利用出来るように無償の貢献をされたことです。この貢献により村井先生は著名になられ、教育分野のみならず、ビジネスの世界も含めて非常に幅広い分野で活躍されるようになりました。

このように、オープンソースムーブメントが生み出す新たなビジネスモデルは能動的な無償の貢献者・貢献企業・貢献国に金銭的なメリットのみならず、名誉をも与えることを理解して頂ければと思います。

なお、村井先生には長期に渡り、私が設立したLPI-Japanの監事として無償で活躍して頂き、感謝しております。


6.個人の貢献者にとり、金銭的なメリット以上に重要なメリットとは?

上記ではオープンソースムーブメントがどのように金銭的なメリットを貢献側に提供するかをビジネスンモデルの観点から説明しました。

一方、金銭的メリットとは別の理由でLinuxを含むオープンソースソフトの開発に貢献する技術者は非常に多いです。その理由の一つは、自分が開発したソフトウエアの著作権を持つことが出来るからだと思います。例えば、多くの場合、企業に雇われたソフトウエア開発者は、自分が開発したソフトに対して著作権を持つことが出来ません。これは雇用主側の採用条件に従業員が雇用主の依頼に基づいて開発するソフトウエアの著作権などの知財はすべて雇用主が持つことが明記されている場合が殆どだからです。しかし、小説や音楽などの世界では、自分の作品を出版社や音楽の配信企業経由で販売しても、自分の創作物に対する「著作権」を有します。一方、企業などで雇われたプログラマーの大半は自分の創作物にたいして著作権を持てません。小説家や作曲家と同様に、自分の創作能力を生かして素晴らしいソフトウエアを生み出す優秀なプログラマーの多くがこの不公平性に不満を感じます。

しかし、Linuxの場合、仮に私が提供した改善ソフトが採用されれば、Linuxのソースコードに私の名前が入るのみならず、私が著作権を有します。オープンソースムーブメントでは無償の貢献が前提ですので、私のプログラムがLinuxに組み込まれたからといって、Linux の開発を統括する団体であるLinux FoundationやLinus Torvalds氏からお金が払われるわけではありません。しかし、世界中で利用されるLinuxのほんの一部でも、自分が書いたソフトが使用され、そのソフトには自分の著作権があり、更に自分の名前がLinuxのソースコードに入るのを無上の喜びとする優秀な技術者が非常に多いのは事実です。多分この喜びを求めてLinuxをはじめとする多くのオープンソースソフト(OSS)の改善活動に参加する技術者数の方が金銭的なメリットを求める技術者数より遥かに多いと思います。

山口周氏は前述した著書の中で、「経済性から人間性」への転換が今後は重要と書かれていますが、無償でLinuxの改善に貢献する優秀な技術者たちは金銭的欲望による活動ではなく、上記したような人間性に基づく行動をしているとも言えます。これは、映画の制作にもあてはまります。映画の最後に、制作に関与した人たちの名前や企業名が表示されるのは皆様もご存じだと思います。しかし、映画の制作に貢献した全員ではなく一部の人達の名前が映画の最後に表示(credit表記)されるのが業界の慣習のようです。

アップルの創業者であったスティーブ・ジョブズ氏は、自分がアップルの社長として招聘したスカリー氏により、アップルから追放されたことがあります。この追放されていた間、ジョブス氏は、映画「Toy Story」をフルCGで製作したPixer Animation Studiosの社長をしていました。しかし、この映画の配給権はディズニーが独占的に持っており、デイズニーは映画の最後に流れるクレジット表記にどのレベルの人を入れるのかに関しても強い権限を持っていました。そこで、Toy Storyの制作者達はジョブス氏に製作者全員の氏名がクレジット表記されることを強く要望します。このことを通じてジョブス氏は、映画の制作に参加したクリエータ達は、自分の名前が映画の最後に流れるクレジット表記されることが、「金銭的な価値とは別の意味で」重要であることを理解します。その結果、彼は、ディズニーと繰り返し交渉し、映画の制作に参加した全ての人達の名前がクレジット表記されることに成功しました。(上記のことはジョブス氏と共にPixarを上場することに成功した当時PixarのCFO (Chief Financial Officer)であったLawrence Levy氏の著書 「 To Pixar and Beyond」で詳しく書かれています。)


7.オープンソースソフトがセキュリティーの観点で強い理由

「ソフトの中身(ソースコード)を全てインターネットなどでオープンにするオープンソースソフト(OSS)はセキュリティーの観点で脆弱ではないか?」との質問を受けることが時々あります。実際は、下記のような理由からオープンソースソフトの方がクローズドソースソフトより外部からの侵入に強いITシステムの構築が可能です。

  1. オープンソースソフトは中身が全てオープンであるが故に、セキュリティー対策の観点でも自社が望むようにセキュリティ対策を強化するようにLinuxを改変することが可能です。そして、改変したLinuxを自社のみで使用する場合は、変更した部分を秘密にすることも可能です。セキュリティ対策はセキュリティーレベルを高くすればするほどコンピュータの処理速度が遅くなります。従って、自社の目的に合わせたセキュリティー対策をとることが、オープンソースのLinuxならば出来ます。しかし、Windowsの様にソフトの中身が公開されていないソフトでは上記のようなことは出来ません。
  2. 現在我々がインターネット経由で金銭の取引をする場合に使用される暗号化技術は、その暗号化の仕組みがオープンにされています。例えば、ビットコインのような暗号通貨の取引はブロックチェインと呼ばれる技術を利用しています。このブロックチェインの仕組みも完全にオープンにされています。重要な点は、暗号化の仕組みや、ビットコインのような暗号通貨もその仕組みが全てオープンにされているが故に世界中のセキュリティーの専門家が仕組みを調べて安全であることを証明することが出来ます。

上記のようなこともオープンソースムーブメントが生み出す新たな価値観と言えます。


8.AIとオープンソースムーブメント

最近、マスメディアが頻繁に取り上げる話題の一つはChatGPTに代表されるAI(人工知能)です。書店にもChatGPTの使用法に関する書籍が多数並んでいます。そして、マスメディアのAIの取り扱い方は大別するとChatGPTのような生成AIが見せる驚くべき性能かAIに対する恐怖のいずれかです。

そこで、オープンソースムーブメントの観点からAIの過去、現在そして将来について私の考えを述べてみます。

IT技術の観点からArtificial Intelligence (AI)と言う表現を初めて使用したのは元MITの教授だったジョン・マッカーシー氏です。彼は1958年から、第一次AIブームの時代とも言われる1960年代にかけてAIで頻繁に利用されるLISPと呼ばれる言語をオープンソース方式で開発しました。そして、後に説明する、私が勤務していた、米国のコンピュータメーカ、Digital Equipment Corporation ( DEC)のユーザ会であるDECUSにソースコードと共に登録しました。

John McCarthy氏

このオープンソース化されたLISPを利用してXerox社を含む多くの企業や研究所がLISPの派生版を作成しました。 そしてXerox社などはLISPを効率よく処理できるLISPマシン等と呼ばれるコンピュータを開発・販売したのです。これらのコンピュータは「エキスパートシステム」と呼ばれるAI手法を高速に処理する目的で開発・販売されました。

そして1980年代はLISPやProlog言語を利用したエキスパートシステムAI技術による第2次AIブームを引き起こしました。当時の通産省(現在の経済産業省)は約570億円を投入して「第五世代コンピュータプロジェクト」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトには富士通、日立、三菱電機なども参加し、多くのDECのコンピュータをオープンソース化されていたLISPコンパイラーと共に購入したのです。
この第2次AIブームの時も、当時のマスコミは現在と同様に、AIの素晴らしさとAIは多くの人の仕事を奪う恐ろしい技術との観点で報道しました。

そして現在は、第3次AIブームと呼ばれる時代です。この第3次AIブームの特徴は、専門的になりますが、インターネット上の膨大なデジタル情報をコンピュータが自動的に読み込み、ニューラルネットと呼ばれる技術を利用して、情報を抽出し、求められる出力を出す生成AI技術です。ChatGPTは生成AI技術を利用した典型的なAIシステムです。ChatGPTはOpenAI社により開発されました。社名にOpenという単語が含まれていることからも想像できるように、OpenAI社は多くのソフトウエアをオープンソースにし、オープンソースムーブメントによりAI技術の向上を目指したと創業者の一人はYouTubeで述べています。しかし、自分たちの夢を実現するには1兆円以上必要であることから、マイクロソフトから一兆円以上の資金を得ることになりました。しかし、マイクロソフトから資金を得てから、OpenA社がリリースされるオープンソースソフトウエア数は急激に減ったと報じられています。

一方、今年の5月にGoogleの技術者が社内の幹部向けに書いたとされるメールが外部に流失しました。
そのメールの表題は”We Have No Moat, And Neither Does OpenAI”です。Moatは敵の攻撃から守るためのお堀です。つまりこのメールは、「GoogleもOpenAIも敵の攻撃から身を守るお堀を有していない」ことを指摘した内容です。なお、OpenAI社の幹部の大半は元Googleに居た人達です。そして、このメールで指摘するGoogle及びOpenAI社の敵はオープンソースのコミュニティー活動です。実はMeta (旧Facebook)は自社開発した、ChatGPTと同様な能力を有するソフト(LlaMa)を2023年の2月にオープンソースとしてリリースしています。このソフトがオープンソースムーブメントにより改善され、現在はChatGPTの92%近くの性能を有すると上記のメールは指摘しています。そして、このメールの作者はGoogleもChatGPTもオープンソースコミュニティーと連携する必要性を訴えています。 PC以外の分野では、オープンソースのLinuxにクローズドソースのWindowsが負けたことと同様のことがAIの分野でも起きるとこのメールの作者は危惧したわけです。

ここまで読んで頂いて、AIの世界においても、1950年代からオープンソースムーブメントが牽引してきたことをご理解頂けると思います。
現在、AIのみならず、先端IT技術開発の分野の殆どの技術開発はオープンソースムーブメントで行われていることを我々IT技術者は理解することが重要です。


9.マイクロソフトの変身

マイクロソフト社は、Windowsを開発し、その中身(ソースコード)を秘密にして、Windowsの使用権(ライセンス)を有償で販売するビジネスモデルで世界最大のソフトウエア企業になりました。

しかし現在、PCの世界ではWindowsが圧倒的なシェアを有しますが、企業の基幹性システムやインタネットサーバ等ではオープンソースムーブメントで開発されたLinuxの方が多く利用されています。また、コンピュータ技術の最高峰である、スパコンの分野ではLinuxのシェアが100%です。

スーパーコンピュータで使用されるOS

Google, Amazon, Meta (旧FacebookやX(旧Twitter)などのITシステムはLinux等のOSSで稼働しています。三菱UFJ銀行、みずほ銀行、東京証券取引所などの金融企業の基幹システムもLinuxで稼働しています。

そして驚くことにマイクロソフトも現在は彼らが提供するクラウドサービスAzure上でLinuxが最も多く利用されていることを宣伝しています。そしてマイクロソフトはLinux等のOSSの普及団体であるLinux Foundationのプラチメンバーにもなりました。

Linux Foundationのプラチナメンバー

マイクロソフトの創設者であるビル・ゲーツ氏と2代目の社長であったスティーブ・バルマー氏は、「Linuxはソフトウエア業界にとって癌だと」述べていました。しかし、3代目の社長として就任したサタヤ・ナデラ氏は、「Microsoft really loves Linux.」と宣伝し始めてIT業界を驚かしました。

Microsoft really does love Linux

ビル・ゲーツ氏とマイクロソフトを設立したポール・アレン氏がマイクロソフトを退職した後に出版した「Paul Allen IDEA MAN」でアレン氏は携帯電話の市場において、Googleはアンドロイドをオープンソースにし無償で提供したのことに対して、Windowsの使用権を有料で販売するビジネスモデルは勝てなかったと書かれています。またアレン氏は、オープンソース方式のアンドロイドは6カ月以内で新しいバージョンが出るのに、マイクロソフトは、新しいバージョンを出すのに少なくとも2年かかったとも記述しています。

マイクロソフトとインテルが互いに手を取り合って世界にPCを普及させた功績は高く評価されるべきだと思います。しかし、多くの技術者を採用し、クローズドソース方式でWindowsを開発し、その使用権(ライセンス)を有料で販売するビジネスモデルは、「オープンソースムーブメントが創りだした新たなビジネスモデル」には逆らうことが出来ないことを示した良い事例だと思います。

このような時代の流れを反映して、マイクロソフトはOpenAI社に1兆円以上の資金を提供し、ChatGPT等、OpenAI社が開発したソフトの能力を自社製品に取り入れる方針を打ち出しています。また、マイクロソフトはメタ(旧フェイスブック)と連携して、メタがオープンソースにした生成AIソフトLlaMaを利用するビジネスも発表しています。このようにマイクロソフトがAIの分野でオープンソースソフトの利用を彼らのメニューに加える程にオープンソースムーブメントはマイクロソフトにとっても重要になった言えます。

実は、現在オープンソースムーブメントと呼ばれる、IT技術者やIT企業の活動形態は1960年代から米国の一部の企業により、自社が設立したNPOを利用して行われていました。従って、オープンソースムーブメントの考えは1960年代から米国のIT企業の一部では存在しました。そして、ビジネスの観点での有効性も証明されていました。このことを次に私の経験に基づいて説明します。


10.米国のIT企業が設立したNPOとオープンソースムーブメントの関係

株式会社は会社の成長に必要な資金を、自社株を購入してくれる株主から得ることが出来ます。これは資本主義の国々の企業が積極的に採用した重要なビジネスモデルと言えます。そして、米国では多額の先行投資が必要なIT企業の多くが上場し、大きく成長しました。

しかし、上場した株式会社は株主に金銭的なリターンを提供する必要があります。そのためには自社株の株価を株主が購入した時よりも高くする必要があります。株主はある特定の日に株を購入するわけではありませんので、株主に金銭的なリターンを提供するには継続的に株価を上げて行く必要があります。また、株主に配当金を払う必要もあります。このようなことを実現するには、自社の売上と利益を、毎年四半期ごとに前年同期比で増加させてゆく必要があります。上場企業で大きく成長出来た企業の経営者達は上記のようなハードルを越えて成長出来たということが出来ます。

しかし、山口氏は著書で、G7国のGDP成長率が落ちてきている最大の理由は、資本主義国で利用されてきたビジネスモデルであまりにも多くの物が有り余るほどに生産され、値引き競争が激化する状況を起こしてしまったからだと書かれています。要するに資本主義方式で可能なことは既に達成されてしまい、これ以上の伸びは非常に難しい状況になったと言えます。

一方、組織の売上・利益の増加を組織の活動目的の主軸におかずして、世の中の諸々のニーズに応える組織形態の一つが非営利活動法人NPOと言えます。そして、前記したオープンソースムーブメントの中核団体の大多数は非営利活動法人(NPO)です。米国では、1960年代から、成功した上場IT企業の一部はNPOを設立し、そこで現在我々がオープンソースムーブメントと呼ぶ活動を起こし、その活動を通じてIT技術者の育成などに貢献すると共にビジネスメリットも得ることが出来ました。その事例を幾つかの米国のIT企業について説明します。

Digital Equipment Corporation (DEC)が設立したNPO: DECUS

DECは私が最初に勤務した会社であり、オープンソースムーブメントに深くかかわっていますので、少し詳しく説明します。

私は、1969年に米国のボストン郊外に本社を構えるDEC (Digital Equipment Corporation)に就職しました。正確にはDEC日本支社に入社したのですがすぐに米国本社に転勤させられました。DECに私が入社した頃のコンピュータの利用形態は、コンピュータルームに鎮座する大型機で全ての業務を集中処理する時代でした。この大型集中処理の世界では、IBMが断トツで、世界最大のコンピュータメーカでした。当時のIBMは独自に開発したコンピュータ、独自開発のOSやデータマネジメントソフト、そしてコンピュータの周辺機器も独自開発した製品のみをOSが扱えるようにするなどで、顧客をIBMの世界に閉じ込める戦略で大成功していた時代です。

一方、私が最初に勤務したDECは、大型機・集中処理方式とは180度逆の分散処理方式を提唱した会社です。DECは自社が製造販売するミニコンと呼ばれる小型機を、コンピュータが必要な所に設置し、それらを必要に応じてネットワークで結合する、分散処理方式(Distributed Computing Style)を世の中に広めた会社でした。この分散処理方式の考えが現在のインターネットの基盤になっています。このDECが提唱したコンピューティングスタイルは、世界中の研究者、教育機関や研究所に受け入れられ、DECのコンピュータは飛ぶように売れました。DECは色々な機器とコンピュータをオンラインで接続できるように、インタフェースの仕様をオープンにしました。その結果、DECのミニコン向けの周辺機器を製造・販売する企業が急増したのです。そして、DECの利用者がアプリケーションソフトを開発するのに必要なソフト群もDECは無償で提供しました。

さらに、DECはDECUS (Digital Equipment Computer User Society)と呼ばれる、DECのユーザ会をNPOとして設立したのです。そしてDECのユーザー達が開発したソフトをDECUSに無償でソースコード付きで提供すれば、DECUSはソフトのコピーに掛かる費用のみで、登録されたソフトを無償で希望者に提供するようにしました。これはまさに現在我々がオープンソースムーブメントと呼ぶ方式と全く同じです。インターネットが世界に普及し始めたのは1990年頃からです。そのインターネットを利用してLinuxの開発を、当時ヘルシンキ大学の学生だったLinus Torvalds氏がオープンソース方式で始めたのが1991年です。ちなみにLinus Torvalds氏はDECのコンピュータを利用してLinuxの開発を行いました。

私がDECに入社したのはインターネットが普及する約20年前ですが、既にDECUSが設立され、多くの研究者や企業間でソースコード付きのソフトが交換され、DECUSが主催する会議では開発者達がDECUSに登録されたソフトをどのように改善したのか、またどのように改善すべきなのか意見交換をしていたのです。

当時の私は、DECUSのメンバー達が自分たちが苦労して開発したソフトをソースコード付きで、しかも無償で提供することの価値が良く理解出来ませんでした。更に、私が驚いたのはこのDECUSに登録されていたソフトの数と品質の高さでした。例えば、現在我々が利用しているLinuxやWindows等のOSはUNIXと呼ばれるOSがベースになっています。このUNIXは米国のベル研究所に勤務していた技術者たちがDECのコンピュータを利用して開発し、オープンソースにし、確かDECUSに登録されていたと思います。私は東大の大型計算機センターの責任者であった故石田晴久教授がDECのコンピュータをオープンソースのUNIXと共に購入して下さったのを今でもよく覚えています。なお、故石田晴久教授にはLPI-Japanの初代幹事になって頂き、色々な面で私を指導していただきました。

また、AIソフトの開発言語として有名なLISPもMITのAI研究者であったジョン・マッカーシー博士らがDECのコンピュータを利用して1960年にオープンソース方式で開発し、DECUSに登録されました。この頃はまだインターネットが存在しませんでしたので、DECUSに提供されたソフトは磁気テープに保存された形で授受がされていました。このような活動が現在インターネットを利用したオープンソース方式でのソフトウエア開発を行う基盤になったと私は思います。

このNPOであるDECUSのお陰でDECは下記のようなビジネスでのメリットを得ることが出来ました。

  1. 膨大な数のDECコンピュータ向けのアプリケーションソフトが無償で開発され、DECのコンピュータ販売に大きく貢献しました。
  2. DECUSのメンバー達が、結果として、DECファンになり、DECに入社したり、DECのコンピュータの優秀性を宣伝してくれました。日本の研究者たちがDECのコンピュータを購入してくれた理由の一つは、DECのコンピュータを利用した研究論文の方が他社のコンピュータを利用する場合より、欧米で論文の通りが良いからと説明してくれました。研究者の間でDECのコンピュータが高い評価を得ることが出来た理由の一つは、DECUSの活動が世界の研究者間で高く評価されていたことによります。

このようにDECには自社製品のユーザ会「DECUS」をNPOとして設立し 、そこで現在オープンソースムーブメントと呼ばれる活動を組織的に広めた功績があります。

Silicon Graphics Inc. (SGI)が設立したNPO: OpenGL

私が勤務した2番目の企業は3次元グラフィックス(3D Graphics)の分野で世界最大の企業に成長したSGIでした。人間が見る世界は全て3次元であるが故に3DGraphics技術が利用される分野は非常に幅広いです。映画の制作やゲームソフトの制作などのエンターテインメントの分野は勿論、自動車業界をはじめとする製造業、医療業界や種々の研究でも3D技術が利用されています。最近話題のメタバースでも3D技術は不可欠です。

それ故に、3次元グラフィックスに特化したSGIもDEC同様に急成長しました。そしてSGIは3Dグラフィックスソフトの開発を容易にするAPI (Application Program Interface)の仕様をオープンソース方式で開発するための組織「OpenGL」をNPOとして設立しました。3Dグラフィックスの分野には多くのライブラリーと呼ばれるソフトがあります。SGIは、これらのライブラリーがSGIのコンピュータ上のみならず数多くのコンピュータやOSの上で利用できるようにすることで3D市場が大きくなることが、自社の成長に繋がると考えたのです。そこでSGIは、ライブラリー間やライブラリーとOS間のデータのやりとりをOpenGL組織を通じて標準化することを行ったのです。このOpenGLの活動には、色々な企業、研究機関そして3Dグラフィックスの専門家が参加し、3Dグラフィックス技術と3D市場の開発に大きく貢献しました。

そしてSGIは自社が設立したNPO:OpenGLの活動を通じて、3Dグラフィクスの世界で必要とされるグラフィックス性能を把握し、その性能を満たすグラフィックスエンジンを他社に先駆けて開発・製造することが可能になりました。これも「無償の貢献」や「ボランタリー活動」と自社のビジネスモデルを巧く連携させた良い事例だと思います。

APPLE社のオープンソースムーブメント

APPLE社が設立したNPOのことはあまり良く分かりませんが、Appleの創業者である、スティーブ・ジョブス氏はオープンソースムーブメントを自社のビジネスモデルに巧みに生かすことが出来た人です。例えば、アップルのブラウザーであるサファリはOSSのKonquerorを基に開発されました。そして、スティーブ・ジョブス氏はサファリの中核部分であるWebkitをオープンソースにしています。またMacOSの中核にもオープンソースソフトを利用しています。また、スティーブ・ジョブス氏はiPhoneやiPadの数万のアプリソフト開発を自社で開発費用を負担せず、多くのアプリ開発者(企業)が無償で能動的に開発する方法を生み出しました。現在でもAPPLEは多くのオープンソースソフトの開発に深く関与しており、その様子は下記のサイトを見ると良く分かります。

https://opensource.apple.com/projects/

このように先見性のある米国のIT企業の経営者は相当以前からオープンソースムーブメントとNPOを非常に巧みに利用して自社の成長に役立てていました。このことを日本のIT業界の経営者とIT技術者は良く理解することが重要だと思います。


11.今後日本では、オープンソースムーブメントとNPOが非常に重要になる。

前記しましたように、オープンソースムーブメントで重要な役割を演じてきているのがNPOです。日本にとり、NPOの重要性は今後ますます重要になると思いますので、このことについて説明します。

米国では国のGDPの約5%をNPOが生み出しています。

https://nonprofit.indiana.edu/our-focus/nonprofit-sector.html

ちなみに、世界最強の米国の国防関連産業が生み出すGDPは米国全体のGDPの約3%ですので、米国のNPOが生み出す経済効果は米国の防衛産業より大きな、NPO Industryとも呼べる一大産業です。

日本でも、資本主義後のビジネスモデルとして、NPOが生み出す種々のオープンソースムーブメントで生まれるGDPが非常に大きくなると私は思います。

日本ではNPOを産業と捉える人は非常に限られた人です。また、企業や有能な人々の無償の貢献により成り立つオープンソースムーブメントを新たな「ビジネスモデル」と考えることが出来る人も限定的だと思います。しかし、私の経験から、オープンソースムーブメントとNPOの活動は間違いなく資本主義後の日本にとり重要になると思います。


12.米国が経験した、「知財を基盤とするビジネスモデル」 vs 「知財を持たないビジネスモデル」

前記したように、米国はインターネットの技術の開発を主導したのにもかかわらず知財を持たなかったが故に、国としてまた自国の企業が膨大な利益を得ることが出来ました。

以下に述べる理由から、米国は知財を有するビジネスモデルと知財を持たない二つのビジネスモデルを1960年代から20~30年間に実践した結果、知財を持たない方が遥かに多くのリターンを得ることが判ったと言えます。その理由はテレビです。

インターネットが世の中を大きく変えたようにTV技術も世の中を一変させました。このTV技術を開発したのは米国企業のRCAです。RCAは自社開発した技術で特許を取得し、TV機器の製造販売を開始しました。そして日本のSONY, Panasonic, 日立、サンヨー、シャープ、三菱電機など多くの日本企業は多額の特許料をRCAに払ってTVの生産・販売を世界規模で展開したのです。そして不思議なことに日本企業は、多額の特許料をRCAに払っていたにも関わらず、TV機器の販売では世界一になってしまいました。TV受信機のみならずTVの放送機器でもSONY, Panasonic、そして池上通信機等が世界を席巻したのです。その理由は、日本での製造コストが当時は非常に安かったこともありますが、TV技術の改善に日本企業が強かったからです。勿論、米国でもRCAのみならず多くの企業がTVの製造販売を行いましたが、徐々に日本企業の製品を自社ブランドで販売するビジネスモデルに変えざるを得なくなりました。この経験で、米国政府は、自国企業が開発し特許を有するビジネスモデルでは、米国企業は短期間に国際競争に負けることがあることを理解したと思います。

同様なことは、日本企業にもあてはまります。日本は、1960年代から1980年代にかけてTV機器のビジネスで世界を席巻したのみならず、多くの物作りの分野で世界一と言われました。当時、日本は物作りに関連する多くの特許や知財を有していました。しかし、それらの知財の経済的な価値は、短期にまた簡単に中国や韓国そして台湾企業に無にされました。

一方、米国はインターネットで、その基盤技術開発を米国政府が牽引したにも関わらず、全ての知財をオープンソースにした結果、インターネットがソ連や中国のような米国と対峙する国でも利用され、長期に渡り莫大な利潤を米国企業が得ることになりました。

更に重要なことは、インターネットは米国のソフトパワーを強力にした事実です。ソフトパワーとは、自国の軍事力を使わず、自国の生活スタイルや文化を相手国に普及させることにより、相手国を自国の思うように動かすことが出来る「力」です。

現在、世界中でインターネット技術を使用したGAFAMがビジネスのやり方や文化の面で世界中に多大な影響を与えています。GAFAMのみならずNetflixのような米国企業も世界の文化を大きく変えていることは否定できません。

私は日本政府や企業が、上記したような、「オープンソースムーブメントが創り出す新たなビジネスモデル」で日本の成長を再現することを真剣に考える必要があると思います。そして、当然のことながら、我々IT技術者も同様です。


13.LPI-Japanを非営利団体(NPO)で設立した理由

私は、上記の様な理由から、2000年に、オープンソースソフトの普及とオープンソース技術者の育成を目的として、LPI-Japanを会社組織ではなく特定非営利活動法人として東京都に申請し、許可を得て設立しました。

そして、オープンソースムーブメントの考えをベースに組織運営をすることで、富士通、NECや日立からの理事の皆様、多くのIT技術者、IT企業、教育機関、そして優秀な事務局員の協力を得ることが出来ました。その結果として、OSSの世界では認定試験の受験者数と認定者数の数でLPI-Japanが世界最大になることが出来ました。


14.Distributed Autonomous Organization (DAO) とオープンソースムーブメント

よく話題になるビットコイン等の暗号通貨はブロックチェインと呼ばれるオープンソースの技術を利用して、銀行等の金融機関を経由せずして世界の多くの国々の暗号通貨利用者と金銭のやり取りを可能にしました。これは暗号通貨がある特定の国に管理されるのではなく、ビットコインの使用者達により管理されている通貨故に可能なことです。

皆さんご承知の通り、銀行は国の許可業務であり、銀行を通じて国の通貨政策をコントロールできる中央集権型組織の一部と考えることが出来ます。しかし、ビットコイン等の暗号通貨はある特定の組織が中央集権的にコントロール出来ない通貨です。このような組織形態を分散型自立組織(DAO: Distributed Autonomous Organization)と呼びます。

実は、オーブンソース方式で開発されたインターネットの運営に関しても特定の国が集中コントロールすることが出来ません。技術的にもインターネットの制御は手中管理ではなく分散処理で、DAOの考えにより管理されていると言えます。冒頭に述べたようにインターネットは万が一米国がソ連からミサイル攻撃を受けても全米のネットワークが停止することがないネットワークの構築を目的として開発したARPANETの基盤技術を利用しています。ロシアがウクライナをいくら爆撃しても、ウクライナの国内・国外の通信が維持できているのは、米国国防省がARPANETに期待した性能をインターネットが十分に満たしていることを証明しています。

Windowsはマイクロソフトが開発し、その知財を秘密にし、Windowsの使用権のみをライセンスとして販売する中央集権型のビジネスモデルです。一方、Linuxは、既に説明したように、オープンソースムーブメントにより開発されたソフトであり、特定の国や組織がその利用法に関して中央集権的に管理することは出来ません。

また、Linuxの開発はLinux Foundationに所属するLinus Torvalds氏の許可を得なければならないといった制約は一切ありません。誰でも自分のバージョンのLinuxを開発することが出来ます。要するに、インターネットやLinuxの開発を進めたオープンソースムーブメントはDAO型の組織形態を目指して開発された技術と言えます。それ故に、インターネット上で開発されたビットコインのような暗号通貨の世界やメタバースの世界も分散型自立組織(DAO)が活躍出来る世界を目指して開発されました。

この事実は企業のみならず国の政策にも多大な影響を与えます。例えば、ロシアがウクライナに侵攻したことに関連して、日本政府はビットコイン等の暗号通貨の運用に関して種々の制約を設けました。しかし、中央集権型の管理や規制はDAOが目指す理念と180度逆故に、政府の規制は殆ど実効性がありません。同様に最近頻繁に報道される、生成AIに関する政府の規制案も、殆ど実効性がないと思います。前述したように、既にChatGPTと同等の性能を有するオープンソースの生成AIソフトがリリースされています。DAOの思想に基ずいて開蓮されるオープンソースの生成AIソフトの使用に関して、政府が規制を設けても今後出てくるオープンソースの生成AIを利用した多くのソフトの全てを政府が検査することは技術的に不可能だと思います。

むしろ日本政府が推し進めるべきことはオープンソース化された生成AIソフトを改善する貢献の競争で日本・日本企業・教育機関・各種研究所が最大の貢献者になれるように、最大の支援をするべきだと思います。要するに政府が重要視すべきことは、生成AIの分野で「オープンソースムーブメントが新たに創り出すビジネスモデル」を数多く生み出せるようにする支援策だと感じます。

ここ20年間に中国や韓国はインターネットを始めとするIT技術の利用の分野で日本を追い越すまでになりました。その最大の理由は、韓国政府や中国政府は国の制作としてオープンソースソフトの利用を促進することで短期に日本を追い越したと思います。中国政府は当然のことながら政治的に対峙する米国の企業が開発したソフトが中国政府や中国企業で利用されるのは国防の観点からも危険と判断し、国の政策として中国国内におけるオープンソースソフトの普及を推し進めました。これが中国がIT技術の面で急伸出来た大きな要因の一つです。

一方、米国のスマートパワー傘下の日本政府は、Windowsを始めとする米国企業のソフトや米国企業のサービスの普及をごく自然に受け入れる傾向が強いと思います。そして、私がここに書いた「オープンソースムーブメントが生み出す新たなビジネスモデル」の重要性を理解せずに現在に至っていると感じます。しかし、資本主義での成長を果たした現在の米国を躍動させている原動力は、ここで述べたような「オープンソースムーブメントが創り出した新たなビジネスモデル」です。その事実からも、日本の資本主義後の新たなビジネスモデルは「オープンソースムーブメント」で築かれる必要があると考えて間違いないと思います。

最後に私はこの寄稿文の読者であるIT技術者皆様がここに記述した「オープンソースムーブメントが創り出す新たなビジネスモデル」を理解されて素晴らしいキャリアを築かれることを期待します。

この記事をENGINEER.CLUBに掲載して下さることを提案して下さった株式会社ボールドの福井克明取締役に感謝の意を表します。

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