
なぜ、ヘルプデスクの募集には「未経験OK」が多いのか?
ヘルプデスク業務は未経験OKとされる募集が沢山あり、たしかに未経験でも採用されます。
しかしそれは、ある程度しくみが整備され、答える内容も決められている(分かっている)仕事の場合です。
また、IT系のヘルプデスクであっても、その会社の専門分野の知識が必要になる場合もあるので、そちらの知識があることを評価されて採用に到るケースもあります。
「未経験者OK」で必須資格無し、年齢学歴不問!と門戸は広いヘルプデスクですが、どの程度の「未経験」なら「OK」なのか、そもそもヘルプデスクは何をする仕事なのか、解説していきたいと思います。
関連記事目次
1.なぜヘルプデスクの募集には「未経験OK」が多いのか
IT系のヘルプデスクとは、ユーザが使用しているシステムやパソコンに関する質問やトラブルについて、そのユーザをサポートすることが主な仕事です。
「ユーザ」は、その会社の社員であったり、契約している顧客である場合もあります。そんな仕事なのにサポートする側が未経験でいいの?と思われたかもしれませんが、それはIT系の知識よりもコミュニケーション能力を重視する場合が多いためです。
そして、問い合わせの手順、対応する質問の範囲や作業内容が決められていれば、数日~数週間の研修で対応可能となるので「未経験者OK」なのです。
例えば以下のような募集があったとします。
◆社内ヘルプデスク 未経験可
- ヘルプデスク業務担当は3名
- 社員からの問い合わせ対応
- 問い合わせは電話かメール
- OS、MS-Office、社内システム関連の問い合わせのみ。研修有り。
- 対応は定時時間内。シフト無し。
4.の対応内容で「社内システム」については入社しなければわかりません。ほとんどの場合、研修はこの部分についての説明がほとんどとなるので、1日で研修終了となる場合もあります。
え?OSやMS-Officeは教えてくれないの?と思いましたか?その通りです。教えてくれません(笑)なぜならば上記のような募集は「ヘルプデスク」という業務や「社内システム」が未経験でもOKです、と言っている場合がほとんどで、OSやMS-Officeはある程度知っているよね?というメッセージが潜んでいます。
「そもそも他者からの質問に答えるお仕事なのだから、全く知らないっていうことはないよね?」ということです。ですので、PCが全くわかりません、という方が採用されることはほとんどありませんが、IT系の知識よりもコミュニケーション能力やIT系以外の専門知識といった重要視される傾向にある要素があるので、OSやMS-Officeの知識はそこそこでもOKなのです。
ただしIT系のヘルプデスクなのですから、いつまでも「IT系の知識はそこそこ」では困ります。「そこそこ」の方は、1~2カ月後を目処にITパスポートは取得できるレベルを目指しましょう。
2.「未経験」でも必要なスキル
冒頭で少々ふれましたが、ヘルプデスクはIT関連知識よりもコミュニケーション能力が重視されることが多々あります。
それは相手の要望を掴む力、つまり相手の要望や伝えたいことを聞き出し把握する力が必要だからです。相手の要望がわかれば、それが対応可能なことなのかそうではないのか、対応できるならする、自分がわからなければ周りに聞いて回答する、と、話が進みますので、他のヘルプデスクメンバーと協力することで自分にそれほど知識がなくても質問に答えることは可能です。
OSやMS-Officeの知識は採用が決まってから覚えても間に合いますが、コミュニケーション能力、特に「初対面の人と話をするのが苦手」という人が今から本を読んでもすぐにそれを克服できるわけではありません。
未経験の方は「今から勉強すればどうにかなるスキル」と「どうにもならないもの」を見極めてから応募してください。まとめますと、次のようになります。
関連記事2-1.未経験でも「どうにかなるスキル」と「どうにもならないもの」
今から(採用が決まってから)勉強してもどうにかなるスキル
- OSに関する基礎知識
- MS-Officeに関する基礎知識
- PCによく接続されるものの名称(プリンタ、メモリ、SDカードなど覚えるだけでも可)
これらは、まずネットで用語を一通り見る(意味や用途は後で)、機器は実物を見る(家電量販店で現物を見る)などすることで、ただ本を読むよりもだいぶ違います。家電量販店で近寄ってきた店員さんの説明を参考にしてもいい勉強になります。(説明や話の展開が上手、下手の両バージョンが体験できます)
どうにもならないもの
- 人が苦手・・・人と話すのが苦手、人の話を遮って自分が話すことが多い、意思の疎通がうまくいかないと不機嫌になる、といったことが多い方はヘルプデスクは避けた方が無難です。
- 電話が苦手・・・支店、営業所が多い会社などは、社内ヘルプデスクであっても電話サポートの場合がほとんどです。ストレスの元がそこにある、と、わかっているところへ行くことはありません。
2-2.ヘルプデスクに「向いている人」「いない人」
どんな仕事でもそうですが、やはり「向き不向き」はあります。周りから見てどうみても「向いてない」と思えるのに本人は楽しくやっている、という場合もありますが(またはその逆)、今まで出会った方の性格の中から、これは、と思ったものをひとつずつ挙げてみます。
■向いている人
向いている、というか、ヘルプデスクという仕事を楽しめる傾向のある方の特徴として「知らないことや、初めて見るものを楽しめる」という点があります。
OSも稼働しているシステムも時々予想外の動作をしますし、それを扱う人間も予想外の操作をします。そういった事態に直面した際に「そんなの知らねぇ!」とイライラするのではなく「そんなこともあるのですね。調べてみましょう。」と、思える方は、ストレスも少なく知識の蓄積も早いように思います。
■やや不向きな人
自分の方が知識がある、自分はできるとアピールしたがる人、いわゆる「マウントを取りたがる人」です。
ヘルプデスクはサポートする立場であり、指導する立場ではありませんし、場合によっては「知っているけど知らないフリ」も必要になります。知識があり、質問やトラブルの対処はそつなくこなせても、相手の話を途中で遮って自分の結論を押しつけてしまったり、「自分にとっては簡単なこと」と、自慢しているような態度をとってしまうと、ユーザが不満に思ってしまうというマイナスポイントがあります。せっかく解決できても勿体ないですね。もちろん、場面によってこの性格をうまく隠せればOKです。
3.「未経験OK」な仕事のチェックポイント
ヘルプデスクは時期に関係なく「大募集」の文字がついているものが見受けられます。これは、新しいプロジェクトが始まり、それなりの人数が必要になった場合や、大人数を採用すれば辞める人も大人数である、というだけで、特にワケアリな仕事をしているわけではありません。
ただし同じ「ヘルプデスク」と書かれていても、仕事内容が全く異なる場合がありますので、未経験の方は以下の点を必ず確認してください。
3-1.8つのチェックポイント
3-1-1.前提条件
あなたがIT系未経験者、あるいはヘルプデスク未経験者であれば「資格不要」「未経験者OK」と書かれている求人をまずは探してみましょう。その後「あれば尚可」「○○の経験者優遇」などで指定されている資格や経験が自分にあれば、採用される確率は高まります。また、募集している会社の業種や職種についての資格や経験があれば、そこで「ユーザの業務内容が理解できます」というアピールポイントとなります。
3-1-2.研修の有無
「研修もあるので安心」とあっても「何について何日間の研修なのか」といった研修内容と、テキストやWebを利用した自己学習なのか、社員や講師による集合研修なのかも確認しましょう。自己学習の場合「事前に自宅で」といわれる場合がありますが、自分に甘い方は大抵ほとんど手をつけずに入社されるので、入社後に社員や講師による研修がある方を選択してください。
3-1-3.サポート対象者
自社の社員、契約顧客、不特定多数の個人、など、誰に対してのサポートなのか確認しましょう。
この三者の違いは「相手の態度」に表れます。自社の社員であれば、連絡してきた人の部署、役職、氏名、契約顧客であれば会社名は確実にわかりますので「自分が誰なのか相手にわかる」「会社(あるいは部署)を代表して連絡している」という意識が相手の根底にあります。ですので、感情的になって連絡してくる人は少ないのですが、「不特定多数の個人」の場合は、自分が背負うもの(会社や部署)が無い分、思っていることをそのまま言ってしまう方が多い傾向にあります。
また、人が特定されるのであれば「○○さん?知ってるよ。あの人だったらこれお願いしても大丈夫」というような、相手のITスキルやその部署の情報なども得られやすいのですが、不特定多数の方から受ける場合は、過去の対応履歴から確認、あるいはお話をしながら相手の理解度を確認して、そのレベルに合わせた説明を工夫する必要があります。
3-1-4.サポート方法
電話、メール、チャット、オンサイト、など。多いサポート方法は電話、メールです。最近はビデオ通話によるサポートも増えています。
一日あたり何件対応するのか、サポート方法が複数ある場合は、その割合と、それぞれテンプレートはあるのか、確認しましょう。テンプレート(トークスクリプト)の有無で、対応1件あたりの重みが変わってきます。1日30件対応するとしても、テンプレート通りの対応の30件と、自分で考えながらの30件は雲泥の差があります。
3-1-5.対応範囲
OSであれば具体的に何か(Windows、Mac、Linuxなど)操作がわかればいいのか、システムコマンドを使うのか、など、レベル感を掴みましょう。そして「自分のできないものがそこに含まれているかどうか」を確認してください。(Excelでマクロの作成はサポートに含むのか、OSのサポートはコマンドによる操作も含むのか、サポート対象だとしたら、それらはマニュアルがあるのか、など)
今、自分にできないものがあっても、部署としての対応範囲であって今は対応できなくてもかまわない、ということであれば、これを機会に覚えてしまえば次に役立ちます。
3-1-6.対応マニュアルの有無
これが無いと、いちいち口頭で確認しなければならないことが多々あります。「今、作成中です」という回答の場合は、作成完了予定を聞いてみましょう。未定であれば「マニュアルは無い」と覚悟するか、自分でナレッジを積み上げていけるのか、考えてみましょう。
3-1-7.対応人数
たとえば、システム部として30人いても、その中でヘルプデスク担当は1人となると、未経験者にとっては少々ハードルが上がります。部署全体の人数ではなく、同じ業務を何人で対応しているか、です。多い方が安心ですね。
3-1-8.その他
勤務地、勤務時間(シフトの有無)、月収、昇給の有無など、自分の希望とよく照らし合わせてください。通勤は概ね電車・バス利用ですが、場所やシフトの関係で自動車免許が必要な場合があります。
3-2.未経験とはいえ、資格はあったほうがいい
資格は不要であってもITパスポートなど取れそうなものは取得してしまいましょう。研修があったとしたら、その期間が復習の時間となり、心に余裕ができます。
もし「IT系は未経験だけど、この部分は自信ある」というものがあれば、それに関する資格を取得して(あるいは関連本を読んでみる)対応可能な範囲を具体的にしておくと、面接時に説明がしやすくなります。
関連記事 関連記事 関連記事4.ヘルプデスク未経験者の年収相場
未経験の場合、月収換算で18万から25万前後と幅広く、月収が高いものは採用後に対応範囲が増えることが記載されています。ただし、同じ内容であっても外国語対応が可能であったり、IT系以外の専門知識が必要となる場合は、25万を超える募集もあります。
募集の多くは「未経験OK」の後に「サポート経験あれば尚可」と注釈がついていますので、まずは経験を積み、ステップアップを目指しましょう。
5.ヘルプデスクを経験したら、その後はどうしたらいい?キャリアへの影響は?
ヘルプデスクを経験することで、エンドユーザの要望や意見を直接聞く機会が増え、自分の中でも知識が増えてくると「もっとこうしたら使いやすいシステムになるのに」「運用方法をこう変えたらいいのに」と、思うこともあるでしょう。そこでヘルプデスクとしてエンドユーザの意見を取りまとめ、改善提案を提出できるようになることも立派なステップアップですが、自分がシステムを作る側になる、という選択肢もあります。
もちろん、そのためにはさらに自己研鑽が必要となりますが、目の前には稼働しているシステム環境と使用者がいるので、本を読んでいても実感が湧きやすいという利点があります。ヘルプデスクは一度経験しておくと、その後どこへ進んでもムダにならない非常にオイシイ職種です。
たとえば、エンドユーザの業務内容も理解できれば、それはシステム設計またはプログラム作成時に活かせる知識となります。また、相手の相談内容をまとめてシステムの改善提案、あるいは新システムを提案していくことはコンサルタント業務にもつながります。
プログラマー、インフラエンジニア、ネットワークエンジニア、ITコンサルタントなど、どれを目指してもヘルプデスクで得た知識は無駄になりません。
6.さいごに
ヘルプデスクは、コミュニケーションスキルがなければ他にどんなに高いレベルのスキルを持っていても、それを活かせない職種です。IT業界の入門的な職種と位置付ける会社もありますが「性に合う、合わない」が如実に現れるので、入門というよりリトマス試験紙的な職業か?と思うことがあります。
今後の人生のため、というと大げさですが、システムだけではなく、より良い人間関係構築のためにも一度ヘルプデスクを経験し、ITスキルと共に傾聴スキルも鍛えてみることをお勧めいたします。
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