なぜフリーランスはやめとけと言われるのか?安易にフリーランスを選択すべきでない理由
昨今、IT業界ではフリーランスになるエンジニアが激増しています。
最大の魅力は会社員からフリーランスになることでほぼ全員が「給与が上がる」ことです。
しかし、果たしてそれだけでフリーランスになって良いのでしょうか。
結論から言えば、安易にフリーランスになるべきではないということです。
フリーランスを選択しても良いのはごく一部の業界TOP層のエンジニアであり、言い方を変えればフリーランスになっても50代まで高い報酬で仕事を得られそうな人。現段階ではまだそうでないという人は、原則やめておいた方がいいでしょう。
今回は、フリーランスになることのメリット・デメリットを実態に即して整理してみます。
目次
1.安易にフリーランスを選択すべきでない5つの理由
後述しますが、給与が上がるだけでなくフリーランスにはエンジニアが求めがちな幾つかのメリットがあります。
ですのでフリーランスになりたいと思う人が増えるのも当然ですし、それが悪いことでは決してありません。奇しくも現在は働き方改革や多様な雇用形態が推奨される時期であり、国家全体も移行期です。フリーランスが増えるのは自明の結果とも言えます。
しかし、本当に誰もがフリーランスを志向して良いのかというと決してそうではありません。フリーランスになって良い人と、なってはいけない人がいます。それをまとめるためにも、フリーランスになることのデメリットとも言うべき5要件を見てみましょう。
1-1.スキルが伸びない
まず最大のデメリットがスキルが伸び悩むということです。少し大げさに書けば、フリーランスになるということは、それまでに得られた自分のスキルをそのままで切り売りし続けるという人生に近いです。
会社員であれば、自社のエンジニアのスキルを伸ばすことが会社の業績をよくすることに直結しますので、会社がスキルを伸ばしてくれます(本人が真面目に研鑽に取り組む前提において)。
先輩社員が後輩社員に手取り足取り教えてくれますし、初めての経験となるスキルアップの案件にも意図的にアサインしてくれます。そして、スキルがついてくるまでのパフォーマンスの悪さはチームがカバーしてくれるのです。
1-1-1.経験値のある現場にしか入れない
フリーランスとなると現場には自社の先輩も同僚もいませんので、あくまで個人のパフォーマンスで報酬に見合った対価を出さねばなりません。
もちろん、プロジェクト内には協力者も現れることもありますが、同僚でもなんでもありませんので、あくまで個人事業主としてあなた自身が対価を合わせてくれ、ということになります。
その構図が大前提になりますので、フリーランスを雇い入れる取引先も「今すでに出来ること」でしかアサインさせず、大幅なスキルアップの見込めるプロジェクトにはアサインしてくれません。
関連記事1-1-2.社員でないことによる個人事業主としての立場
フリーランスエンジニアに新しいことにチャレンジさせて個人のスキルを上げさせるということには、誰にも利害も興味もないのです。
あなたが事業主であり、あなただけが働くのですからチーム力でのカバーや、営業活動、育成に関して誰も何もしてくれません。格でも知識でもなく「経験」のみがモノを言うIT業界において、既にやったことがあるものばかりにアサインされることは致命的とも言えます。
フリーランスになるということは、最悪このままでスキルが止まってしまっても良いという覚悟が必要です。
エンジニアという人達は自分のスキルが伸びることに大変な興味を持っていますので、この点に愕然として一度フリーになったあと会社員に戻ってくる人も後を絶ちません。
1-2.営業活動をしなければならない
会社員であればやならくて良いものの、フリーランスになると必須になるのが営業活動です。これが嫌でフリーランスを辞める人もいます。需給のバランスが崩れていて売り手市場ですので、案件は結構すぐに見つかります。なので、本当に営業活動が必要なの?と思う人もいるかも知れません。
ここに書いている営業活動とは決して法人にアポイントを取って訪問する営業活動ではありません。自分の契約が終わるのを見越して、翌月1日から即で次のプロジェクトに入れるように、条件面で自分が納得できるプロジェクトを探し入場日に間に合うように面談を終わらせ契約を勝ち取る、という一連の作業のことです。
これが簡単そうに見えて案外と難しく、ブランクが空くことがあります。1か月程度のブランクであればキャリアの面ではブランクとはなりませんが、1年のうちに1か月働かない日があるということは年収が8%ほど減ってしまっているのと同じですので、最大の魅力になっている「収入」の面でのメリットが減ってしまいます。
フリーランスであるのに、全くブランクを作らないためには、営業活動に相当な時間数を、本来の職務と並行して投入せねばなりません。
1-3.技術力以外の自己研鑽も自身でデザインしなければならない
フリーランスはその技術力を買われてプロジェクトにアサインされるわけですので、原則として技術力が対価に見合っているか否かのみを問われます。
しかし、社会の中で働いていく上では技術力以外の一般的な仕事力や、人間力と呼ばれる類の力も身につけていかねばなりません。それらの多くは、会社が全従業員に対して、もしくは先輩が後輩に対して制度や個人的努力によって付けてくれるものであり、フリーランスには誰もつけてくれません。
フリーランスで頑張っている人が、土日などを使って数万~数十万するセミナー等で人間力等を磨いているのは自分でやるしかないからです。原則として会社が用意してくれているものは全てなくなるのです。これらに掛かる費用も収入から引いてみておかないと、収入すら実質的にどの程度上がったのかが疑問になってきます。
関連記事1-4.景気変動に弱い
景気が大きく後退したり、業界全体に何か不況が訪れると、真っ先に切られるのがフリーランスです。まさに産業の調整弁であることは間違いなく、何の保証もありません。それと引き換えに自由を手に入れているイメージです。
中長期におけるIT業界そのものの見通しは悪くありません。しかしながら、企業の設備投資意欲に絡んで小さな波は当然ありますし、またAI等の発達によりエンジニアそのものの仕事が減ったり、外国人エンジニアの大量投入やオフショア率の向上などで、需給が均衡したり逆転したりする日はいつか来ます。
もちろんそうした際には会社員と言っても安穏とはしていられないのですが、とは言え、会社員ならギリギリ雇用を継続してもらえる人でもフリーランスとなれば、何の躊躇もなくばっさり切られます。あくまでも確率論として、相対的にみれば圧倒的に分が悪いです。
1-5.マネジメントスキルが身に付かず50代以降のキャリアデザインが難しい
フリーランスで生きる人の中にはマネジメント志向でなく、最後まで現場の一線で手を動かしていたいという人が多いです。
会社から「現場を離れマネジメントに就け」と言われたのをきっかけにしてフリーランスになる人も散見されます。しかし、60歳、65歳という定年の年齢まで技術力だけで生きるのは至難の業と言えます。
また、技術力だけでなくPMとしてプロジェクトをマネジメントしていくポジションでフリーランスをやれる人もいますが、それはあくまでもプロジェクトという限られた期間における目的完遂のマネジメントであって、中長期で人を育成し組織を創り上げるマネジメントではありません。
会社という同じ組織の一員として、部下を育成し、指導し、マネジメントしていける経験を伴わせられないのは大きなデメリットであり、50代以降に必要とされ続けるビジネスパーソンになるのは難度が高いです。
関連記事2.フリーランスでも食べていけるだけの売り手市場になっている
とは言えここ数年、フリーランスになるエンジニアが急増しています。
それには理由があり、まずは業界動向としてますますエンジニア不足が加速していますし、フリーランス専業の事業者も増えています。そして近視眼的に見ればエンジニアが好む分かりやすいメリットもあり、何より、今は誰でもと言っても過言でないほど、フリーランスになるハードルが下がっている売り手市場です。その辺をまとめてみましょう。
関連記事2-1.業界的背景
もともと日本においてはITという産業が誕生して以来、慢性的にエンジニアが不足しています。
経済産業省がまとめた統計と推計では、2015年段階で17万人程度不足しているITエンジニアが、2030年では最低でも40万人、最大で80万人も不足すると予測されています。これはIT業界そのものが伸張を続けることで必要人材が増加するのに加え、国家の労働力人口の減少が双方から直撃する結果です。
当然にして需給のバランスが崩れて売り手市場になっていますから、フリーランスになっても食べていける可能性は格段に増しています。
2-2.フリーランスを支援する事業者の増加
そのような背景を元に、それをビジネスチャンスと見込んだ事業者がフリーランスになるのを推奨したり、フリーランスのエンジニアを支援するビジネスモデルを拡大しつつあります。
売り手市場を背景に、各社とも業績を伸ばしていますので広告予算も取りやすく、転職活動やフリーランスになることを意識していない人の目にも「フリーランスになる」という選択肢が目に入る機会が激増しました。
2-3.フリーランスになる具体的なメリット
フリーランスになることのメリットは多々ありますが、多くは以下の3点に集約されます。
それは収入が高い、仕事が選べる、好きなときに退場できるという3点です。いずれも、エンジニアが仕事をする上で、非常に重要視したい3項目です。これらが全て満たせるので、「なれるものならフリーランスになりたい」と思うエンジニアが増えているのです。
2-3-1.収入があがる
フリーランスになる最大のメリットは収入が上がるということです。
手取り35万円のエンジニアがフリーランスになった途端に倍増の70万円になるというのはよくある話です。もちろん、個人事業主になるということですから社会保険も労災保険もありません。ここから保険料や交通費など、本来は会社で天引きされていたり、会社が負担してくれていたものが控除されていきます。
ただ、それらを引いてなお、大幅な収入増になることは間違いありません。目一杯働いて高収入を得ることもできますし、逆に給与が上がった分、週に3回勤務などに抑えても今までどおりの収入が得られますので、自分の嗜好に合わせたワークライフバランスが取りやすいという人もいます。
とにかく収入が上がるということを理由にフリーランスになる人が圧倒的多数です。
2-3-2.仕事内容が選べる
収入に次いで多いのが、自分がやりたいことを選べるという理由です。
会社員である以上は、会社が持っている仕事の中から、会社の指示によってしかアサインされず自分のやりたいことは優先できません。近年はエンジニア本人にアサイン先を選択させてくれる企業もありますが、それでもなおその企業が持っている案件にしか入れないのは当然のことです。
その点、フリーランスになると原則としてフリーランスが入場可能とされている全ての案件が対象になりますし、個人事業主ですから自分のやりたいことだけを選り好みできます。報酬はもちろんのこと、プロジェクトの内容、自分に任される職務範囲、勤務地まで自分が納得のいくものを探すことができます。
2-3-3.肌に合わなければ好きなときに退場できる
会社員である以上、自分と反りの合わない上司に当たろうが、案件が炎上しまくっていようが、所属する会社がここまでで良いよと言うまではその現場で頑張り続けなければなりません。
しかし、フリーランスになれば(契約期間の長さや規約にもよりますが)およそ1カ月後であればいつでも退場することが出来ます。これもエンジニアにとっては極めて好都合な条件です。
このような状況で、フリーランス・エンジニアはどんどん増えています。しかし、1章でまとめたデメリットは明確に介在します。そこを踏まえてもなおフリーランスが魅力的に感じる人は、フリーランスになっても良いと思いますし、もし本当にそう思えるなら今がチャンスという捉え方もできます。
3.最後に
以上のことからもお分かりの通り、フリーランスになることには分かりやすいメリットもある一方で、多くのしかも中長期では非常に深刻なデメリットが付随しています。ですので、瞬間風速的に加熱しているフリーランス化の波に乗って安易にフリーランスになることはお薦めできません。
そもそもIT以外の業界を見渡してみれば分かるように、フリーランスで生きていける人というのは、本来は各業界のトップランナーのみです。最低限の生活が出来る程度に稼ぐ人はいますが、フリーランスとして豊かな人生を送れる人はごく一部であり、確率は低いはずなのです。
ですので、短期間で一生分稼げるという見込みが立つほど力のある人は別として、そうでない人が今フリーランスになれるのは、需給バランスの崩れた市場環境と自身の年齢の若さのおかげですので、そこは勘違いしない方が良いです。
現にフリーランスから再び会社員に戻ってくる人も多数いますし、戻りたくてももう採用されない年齢になって困っている人も散見されます。
もし本当にフリーランスになる覚悟を決めるのなら、せめて案件が豊富であるだけでなくフリーランスとしての働き方を大幅に支援してくれる企業に登録し、その事業者が提供するプラットフォームをフルに活かしきるつもりで探した方が良いです。(しかし、そもそもその事業主が利益を出している時点でフィーの一部が落ちているということですから本当のフリーランスとは言えず、形態を変えた「保障のない会社員」とも言えなくはないです)。
本当の意味でのフリーランスになれない人は、自分に合った会社選びを優先した方がいいかも知れませんね。
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