ITIL foundation V3とは?取得のメリットや難易度、勉強方法を解説
ITIL foundation(アイティル・ファンデーション)V3は「ITIL」((Information Technology Infrastructure Library))という書籍にまとめられている知識が理解されているかどうかを問われる試験です。「ITIL」は1989年にイギリスで初版が公開された書籍群で、ここにまとめられているのは「ITサービスを管理するための最善の方法」です。つまり、ITサービスを管理するためのお手本集が「ITIL」です。試験では、ITILの基本概念やプロセス、用語について正しく理解できているか、IT サービスマネジメントの目的や重要性を理解できているかが問われますが、大きく4段階ある試験の中で、基礎レベルの試験がITIL foundationになります。2022年6月現在、日本でITIL4も受験可能ですが、この記事では、ITIL foundation V3の資格について解説していきたいと思います。
目次
1.ITIL foundation V3とは
ITIL foundation V3(以下V3)は2007年にリリースされたバージョンで、2011年にマイナーバージョンアップが行われたことから、syllabus2011(シラバス2011)と表記されることもあります。日本でのV3試験終了時期は2022年6月時点で未定です。また、今後試験が終了したとしてもV3資格が失効するわけではありません。
1-1.ITILとは
ITILとはITサービスを管理するためのお手本、教科書なのですが、企業で利用するITサービスは誰かが(どこかの部署が)維持管理を行わなければなりません。規模が大きくなるほど係わる人や部署も増えますので、その管理方法について「何が最適な方法なのか」と考えた時に「ここにいいお手本(ベストプラクティス)ありますよ」とリリースされているのがITILです。ほとんどの企業では情報システム部などIT関連部署がITサービスを管理していますので、エンジニアがITILの資格を取得する場合が多く見られますが、考え方は、どの業種、どの部署でも応用できるという汎用性の高さから一般管理部門の方でも取得されています。ITIL foundation V3はリリースされて15年以上が経ちますが、試験内で問われる用語は世界共通であり、多くの現場で耳にします。
1-1-1.「ITサービス」とは
さて、この誰かが維持管理しなければならないITサービスとは何でしょうか。ITILで定義されている「サービス」とは顧客に価値を提供する手段のことです。サービスは、その価値に加えて使う人の目的に合ったもの、そして使いたい時、あるいは「使えます」と約束した時間には使えなければなりません。いまや、なにかしらITの機能を使って生産、販売や組織内の業務管理を行っていますが、このITの機能を「サービス」として過不足なく安定した品質で提供することを「ITサービス」といいます。
1-2.5つのプロセスについて
V3ではサービス・ライフサイクルを5つのプロセス(ストラテジ、デザイン、トランジション、オペレーション、継続的なサービス改善)に分類し管理します。人間のライフサイクルで言えば、生まれてから死ぬまでを5つに分けているイメージです。例をあげますと、「サービスストラテジ」の段階で「どんなサービスにするか」など戦略を考え「サービスデザイン」で業務設計を行います。次の「サービストラシジション」で運営準備を行い、「サービスオペレーション」で運営を管理します。こうして提供されたサービスを「サービス改善」で役立つサービスとなっているかをチェックし、必要に応じて改善を行います。サービス改善で完了となるわけではなく、提供されたサービスに致命的な欠陥がなくても、時間が経てば人も組織も方針も変わりますので、場面に応じて再度各プロセスから順番に回していきます。これはITサービス終了まで続きます。ITIL foundation V3ではこのライフサイクルの重要ポイントについて出題されます。
1-3.試験申し込みと合格基準
試験はCBT方式で行われ、65%以上の正解で合格です。申し込みは以下の2社で受け付けています。試験会場により、休日や試験時間が異なりますので、予約は余裕をもって取りましょう。どちらで受験して合格しても認定内容に差はありませんが、2022年6月にプロメトリック社のみ受験料が変更されました。(受験料に、いわゆる「定価」はなく、各社が決めています)
申込 | 受験料 | 本人確認書類 | 試験時間 | 出題数/解答数 | 出題形式 |
プロメトリック社 | ¥57,431 ※1 | 【当日持参】 学生証、免許証、パスポートなど顔写真付きのもの | 60分 | 40問/40問 | 多肢選択式 (四肢択一) |
ピアソンVUE | ¥43,890 | 60分 | 40問/40問 | 多肢選択式 (四肢択一) |
問題数が40問なので26問以上の正解で合格です。その場で画面に結果が表示されます。
※1 2022年6月1日(水)申込分より受験料が変更になりました。
2.取得するメリット
汎用性が高い、ということが一番のメリットです。ITILは特定のベンダーにかかわる試験ではなく、ITシステムを使ったサービスの運用・管理方法についてのお手本であり、デファクトスタンダードとまで言われているマネジメントフレームワーク(パターン化して誰でもできるようにしたもの)です。ざっくりいえば素人がイチから時間をかけて試行錯誤するより、こうやったらいいよ、という方法を教えてくれるものです。あるべき姿がわかれば改善ポイントも発見しやすくなります。また、全世界の大手企業で採用されていますので、どこへ転職しても役立ちます。ITサービスの維持管理と改善は、サービス使用中は継続して行われるものですから、一生ものの資格ということになります。
2-1.技術との組み合わせでワンランク上のエンジニアへ
ITILを取得するために得た知識は、実際に活かしてこそナンボです。昇格や転職のために取得するのだとしても、ITILの考え方はさまざまな場面で応用できます。しかし、残念ながらITILだけ取得しても高い評価にはつながりませんが、あなたの持つ技術、IT系でいえばインフラ構築や開発の技術と組み合わせることで高収入へつながる可能性があります。(下図の募集例参照)次の「おすすめの書籍」でも紹介していますが、「ITILはじめの一歩」には次のように書かれています。『ITILは顧客にとって最適なサービスを理解し、管理するもの。(つまり)サービスマネジメントの手法なので、どの業種にも活用できる』エンジニアの方は、自分の技術力にITILのサービス力とマネジメント力を加え、ワンランク上のエンジニアを目指してください。
3.学習方法
独学でも十分合格できます。学習のポイントは、
- 学習期間は最低1か月を確保
- ITIL活用の具体例を知る
- 用語の意味確認は関連書籍(関連サイト)で行う
の3点です。
3-1.学習期間
ほぼ暗記勝負のITILですが、やみくもに用語を覚えても混乱するだけですので、一か月の学習期間のうち、2週間で書籍を読んで雰囲気を掴み、残り2週間で教科書の巻末にある模擬試験やPing-tでの問題集に取り組んでみてください。
3-2. ITIL活用の具体例を知る
ITILは取得後に活用できてこその資格ですので、まずはITILって具体的に使うとどうなるのよ?というところを掴んでいただきたいと思います。ITILの教科書を読んでもあまり面白くないし(笑)実感もわきにくいと思いますので「5.おすすめの参考書など」であげる書籍を読んでいただければと思います。
3-3.用語確認は関連書籍(関連サイト)で行う
書籍を読んでいる間、あるいは問題集の中でわからない用語が出てきた時は必ずITIL関連書籍、または関連サイトで確認してください。知っている単語でも微妙に意味が異なるからです。
例として「サプライヤ」を、普通にGoogle検索しますと『サプライヤーとは、仕入先、供給元、納品業者などの意味を持つ英単語。 業務や事業、商品に必要な機材や資材、部品、原材料、サービスなどの売り手のこと。』という結果が表示されますが、ITILでは『ITサービスを提供するために必要となるITインフラストラクチャ(ハードウェア、ソフトウェアなど)やITサービスを、ITサービスプロバイダに提供する会社、組織』のことを指します。
3-4.おすすめ問題集
スキマ時間にスマホでもできる、以下の2つがおすすめです。
・Ping-t
ユーザ登録が必要ですが、無料でITILファンデーション問題集(300問)が利用できます。
・CramMedia
EX0-001 ITIL Foundation (syllabus 2011) (旧試験番号:EX0-117) 資格問題集 – ITIL 問題集
https://www.crammedia.com/EX0-001-ITIL-Foundation-syllabus-2011/p/247/204
無料版と有料版があります。
4.おすすめの参考書
試験対策本を読む、というよりITILの考え方やITサービス管理ってつまりどういうことなのか、という点をある程度おさえたうえで教科書や問題集にとりかかった方が馴染みやすいと思いますので、遠回りなようでもまずは解説本などを読んでいただきたいと思います。
・ITIL はじめの一歩 スッキリわかるITILの基本と業務改善のしくみ (IT Service Management教科書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4798158887/
タイトル通りITILのことがスッキリわかります。八百屋に、旅館に、喫茶店にITILを導入したらどうなるか、という例をあげてそれぞれのプロセスについてわかりやすく解説されていて、読みやすいです。ITILって何?という方には是非読んでいただきたい一冊です。
・『アポロ13』に学ぶITサービスマネジメント ~映画を観るだけでITILの実践方法がわかる!
https://www.amazon.co.jp/dp/B01M7UBPHQ/
映画「アポロ13」を題材にITサービスマネジメントの基礎について書かれた本です。映画を見た方も見ていない方も是非。
・新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!
https://www.amazon.co.jp/dp/4863541708/
ITILを使って業務改善するってこういうことなんだなー、という雰囲気掴みにおすすめの一冊です。特に運用管理未経験、IT業界も経験が浅い方は最初にこちらを読んでおくと、関連書籍を読んだときに多少楽に読めると思います。
・IT Service Management教科書 ITIL ファンデーション シラバス2011 (EXAMPRESS)
https://www.amazon.co.jp/dp/4798125709/
ようやく教科書の登場です。多少読みづらいところはありますが、全体的な解説はこちらで。図書館にあったりもします。
ITILの日本語訳が読みにくいのは、翻訳者が自分の経験をもとに意訳してしまうと微妙にニュアンスが変わってしまうからだそうです。
5.さいごに
ITIL関連の本を読んでいますと「いや、そんなうまく問題点を解決できるわけなかろう」と思ったりしますが、つまりは「どこに目をつけたらいいのか」というカンどころが養われるのがITILなのかなと個人的には思っています。人は何か問題点があると何かの(あるいは誰かの)せいにしたがりますが、それじゃイカンとわかっていても、じゃぁどうすればいいのよという時に「このあたり見直してみればいいんじゃない?」というヒントがITIL本にはあるような気がします。V3はもう古いと言われるかもしれませんが、そのV3に書かれていることもできていない場合や、まだまだこのウォーターフォールモデルともいうべき「順繰りに処理」していく方法でシステム開発を行うところは多いのですし、IT業界を離れてもITILの知識はムダにはなりませんので、是非関連書籍だけでもお読みください。
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